夏月夜十景 第四景


様々な方が参加した当時の怪談会の内容は実に多種多様なものだったようですが、ざっくりと大きく分けると、次の二つに分かれるようです。
一つは生の世界と死の世界が何かの力によって交差する、つまりは幽霊出現のお話、もう一つが予兆、いわゆる虫の知らせというお話なのですが、中には少ないながら例外ももちろんあって。。。
以下はその例外のような話になると思われますが予兆といわれればそうなのかもしれませんがなんだか訳のわからなさに笑ってしまいそうな感もあって劇中に取り上げたものです。
確かにエログロナンセンスの流行した時代ではあったのでしょうが、以下、小説家、岩野泡鳴のお話です。

今から二十年ほど前、姫路から出てきてドイツ語を勉強していた叔父の話で、いや、実はその二年後に癌で亡くなるのだけどね。その叔父に癌が見つかった時、祖母が変な夢を見たのだそうだ。叔父が突然訪ねてきて「離れの座敷のふすまを開けたら妹が、つまり僕の母なんだが、奥の間で真っ二つに斬られて死んでいた」と言ったと言うんだ。
それからしばらく経ったある日、また祖母が「口を開こうとした途端歯がガクッと抜け落ちたので、慌てて両手を当てたらなんとか受け止めることができた」という夢を見たそうで、聞かされた祖父は最初はなんのことだかわらずいたらしいけど、ほどなくしたら叔父が死んだそうなんだ。ところが死んでまもなく、母がちょうど姉を産んだ頃だったらしいけど、ある夜、ひょいとその叔父がやってきて、機嫌よく赤ん坊の姉をあやしていたと思ったら母に向かって「俺はこの子の弟になって生まれてくる」と言ったという夢を見たと父に話した翌年、母は孕んで秋に私が生まれてきたという。まさかとは思うが僕が気づかないだけで僕のどこかに叔父が隠れていたりするのだろうか…。

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